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第42話 演技

Auteur: 青砥尭杜
last update Date de publication: 2025-03-04 22:59:29

 カイトの護衛役として同席するセリカとステラや、ホスト国であるセナート帝国側の案内役であるシルビアに対してもフランクに接しながら食事を愉しんだ様子のトゥアタラは、翌朝には出立することになっていたカイト一行の予定に合わせて同じ汽車に乗り込んだ。

 トゥアタラは自分に随行するアメリクス合衆国の外交官と、魔道士団ではない軍隊の少将であるという軍人、そしてアメリクス合衆国の筆頭魔道士団であるワキンヤン魔道士団の第三席次に就くネメシス・トリオンの三人をカイトに紹介した。

 トゥアタラと同い年だというネメシスは、黒い瞳が辛うじて覗くほど細い切れ上がった目が特徴的な中背の青年で丸い銀縁の眼鏡を掛けており、トゥアタラとは対照的に寡黙な男性だった。

 意気投合した様子のカイトとトゥアタラは、シルビアやステラを交えてポーカーに興じるなどしながら互いに深い内容には触れない、たわいのない会話を楽しんだ。

 カイトらを乗せた汽車は、昼過ぎには最終の目的地となるセナート帝国の帝都であるマスクヴァの中央駅に到着した。

 マスクヴァにいくつか存在する駅の中で最大の駅舎を誇る中央駅は、セナート帝国の繁栄を呈するような豪壮な造りをしており、カイトの目には駅舎というより宮殿のように映った。

 中央駅の前には豪奢な装飾を施された二頭立ての四輪馬車が四輛待機していた。

 カイトの一行は迎賓館へ、トゥアタラの一行はホテルへと行き先が分かれていた。

「では、カイト卿。魔王が催す晩餐会で、また」

 トゥアタラがリラックスした笑みを浮かべながら右手を差し出すと、カイトも笑顔でもって握手に応じた。

「晩餐会の前に、トゥアタラ卿と話せて良かったです」

「さてさて、列強の首席魔道士が一堂に会する席で、ホストのどんな趣向が待ち構えているやら……」

「ええ、大帝のもてなしってやつを味わってみるとしましょう」

 カイトとトゥアタラは互いに笑顔のまま別れた。

 馬車へと乗り込んだトゥアタラは、馬車が発進すると同時にカイトの前では一切見せなかった真顔となった。

「ネメシス、おまえの目にはどう映った?」

 トゥアタラの向かいに座ったネメシスは銀縁の眼鏡を右手の中指でくいっと上げてから、端的なトゥアタラの問いに応じた。

「不安を押し殺す術は身に着けているようですが、皇帝シーマの対抗馬としては幼いという印象を受けました」

「確かに実年齢や見た目とは別の面でも子供っぽさを残している感はあったな……それも演技の内なら中々の男ってことだが、演技だと思うか?」

 エースナンバーとされる第三席次を背負うネメシスが、深い思慮を反映するように黒い瞳をトゥアタラに向けて答える。

「残念というべきかを現時点では判断できませんが、違うかと。不安や緊張を隠す演技だけで精一杯のように見えました。トゥアタラ卿が選んだ「壁の無い男」ほど分かりやすい演技ではありませんでしたが」

 ネメシスの物言いを聞いたトゥアタラは、肯定を含んだ微苦笑を浮かべた。

「カイト卿はオレの演技に気付いていながら付き合ってはくれた。今はそれだけでも及第点としておこう」

「はい。魔力量だけの使えない男ではないことは、確認できたかと思います」

「三人目の聖人、二人目の太魔範士、さて……カイト卿が背負う三つ目の異名はどうなるかねえ」

「それは、我々次第でなくてはなりません」

「ああ、オレたちは傲慢だからな……」

 話を切り上げるトーンでネメシスへ肯定を返したトゥアタラは、車窓の外にその鋭い視線を移した。

 トゥアタラの一行が乗った馬車を見送ってから、カイトたちも馬車へと乗り込んだ。

 セナート帝国の帝都マスクヴァの人口は約百三十万人。ミズガルズ王国の王都プログレの八十万よりも多いと聞いていたカイトは、興味に抗わず馬車の車窓から街並みを眺めた。

 統一された意匠の建物が整然と建ち並び、道路は碁盤の目に整備されていた。

 カイトは美しい街だと感心したが、同時にこれまでのヴォストークやオムスクといったセナート帝国の街には感じなかった厳めしい迫力めいたものも微かに感じた。

 カイトの一行が到着した迎賓館は、ミズガルズ王国の迎賓館となっているブレビス離宮に比べて三倍ほどの広大な敷地を有していた。

 シルビアに先導されて黒い大理石が基調となっている迎賓館へ入ったカイトは、ひんやりとした気品を含んだ空気を感じ取って思わず背筋が伸びた。

 豪壮な迎賓館はシンメトリーな造りとなっており、カイトたちが宿泊する施設は右翼に位置していた。

 迎賓館のスタッフがカイト一行の到着を恭しく出迎えた。

 そこまで案内するとシルビアは立ち止まり、カイトに向けて頭を下げた。

「私の役目はひとまず、ここまでとなります」

「お世話になりました」

 カイトもシルビアに対して頭を下げて応じた。

「いずれまたお目にかかるかと存じます」

「その際は、またポーカーの相手をしてください。次は負けません」

 軽口に合わせて微笑みを浮かべてみせたカイトが右手を差し出すと、シルビアはいつもの微笑にわずかな愉快さを含めてみせながら握手に応じた。

「はい、ぜひ。愉しみにしております」

 シルビアはもう一度カイトに向けて会釈してから立ち去った。

 初めての対面からここまで一貫して如才が無い女性だった。戦場では会いたくない。カイトは素直にそう思いながら、シルビアの最後まで隙のない背中を見送った。

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